しあわせの理由

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)

イーガンの日本オリジナル短編集。SFでない話も含まれる。医学ネタが結構多い。以下はネタばれを含むあらすじ。

  • 適切な愛(APPROPRIATE LOVE)

交通事故で恋人が半死半生に。彼女の保険と経済力では、彼を救う方法はひとつしかなかった。代理母卵子を宿し成長を促進させ、脳は自分の体内で2年間保存するというもの。彼女は彼への愛を確かめるためにこの道を選ぶ。2年が経過し、正常な肉体を持つ彼がもどっても、もう以前と同じように愛することはできなかった。のっけからかなりヘビーな話。SF。

  • 闇の中へ(INTO DARKNESS)

 未来人の遺産か、直径約1kmワームホールが突如として地表に出現する世界。その中では、何者も外側に向かって移動することはできず、安全なコアに進むしかない。また、コアに到達する前にワームホールが消えてしまうことも死を意味する。ワームホールが消滅スると、地表のランダムな一に出現する。ワームホールが存続する時間は、半減期が18分の放射性原子核と同じ統計値に従う。1分後に存在する確率は96.2%。18分では50%。だが、確率は過去の影響を受けない、何分存在しようが18分経過後も、次の1分は96.2%で、18分は50%だ。もろSF。

  • 愛撫(THE CARESS)

 ある女性の殺害現場に到着した刑事は、体が豹、頭が女のキメラを発見する。その姿はある絵画にそっくりだった。市民の情報から、絵画に似せた情景を現実に作り出すことを目的とした狂信者がいたことが判明する。捜査を進めるうちに刑事は事件に巻き込まれてしまう。ちょっとSF

  • 道徳的ウイルス学者(THE MORAL VIROLOGIST)

ある男が、徹底した一夫一妻制を維持するためのウィルスを作り出す。このウィルスに犯されると、同姓または複数の異性と性交渉を持つと直ちに死亡してしまう。ウィルスが完成したところで、男は旅に出かけ、ウィルスを世界中にばら撒く。旅から帰ると、気まぐれから娼婦に自分の発明を話してしまう。娼婦はウィルスの致命的な欠陥を暴く。ちょっとSF。

  • 移相夢(TRANSITION DREAMS)

記憶をソフト化して、グレイズナーに移植する際に、誰しも悪夢を見るという。しかし、グレイズナーになった際には必ず忘れてしまうという話を聞かされる。男は不審に思いながらも移植手術を受けるが、自分が死んでいく悪夢を見るところで話は終わる。
全ての記憶を受け継いだグレイズナーは、果たして自分といえるのだろうか。

 ある探偵が、ある富豪から、絵画(イコン)を探してほしいと頼まれる。その絵画は500万フランの価値があるという。そのイコンはあるクーリエがチューリヒに運ぶ途中で、なぜかそのクーリエはウィーンのホテルで死体で発見され、紛失していた。いったいそのイコンにはどんな価値があるのか。今まで一度も規則を破ったことのないクーリエは、なぜウィーンに寄ったのか。現代を舞台にしたミステリ。

  • ボーダー・ガード(BORDER GUARDS)

誰でも参加できる量子サッカーに、人付き合いの悪い名プレイヤー(女性)がいた。彼女はかつて、意識を宝石に埋め込み不死の体を生む理論を発表した人物の助手を務めていた。彼女はこの技術が普及する前に、大事な人を亡くしていた。「祈りの海」収録の「ぼくであるために」と同じ世界観。ハードSF。

  • 血を分けた姉妹(BLOOD SISTERS)

一卵性双生児が、遺伝的な原因で同じ時期に不治の病にかかってしまう。直すには試験中の薬を毎日飲む続けるしかないという。しばらくすると、主人公の妹のみ死んでしまう。妹の遺品を調べてみると、妹の飲んでいた薬は偽薬であることがわかった。調査を進めていくうちに、大きな陰謀に気づく。非SF。

  • しあわせの理由(REASONS TO BE CHEERFUL)

ある病気がきっかけで、主人公の脳は、幸福を感じる受容体を無くしてしまった。欠損した脳のかわりに、多人数からコピーした脳組織のポリマーを脳にうめこむ処置を選択すると、今度はあらゆる出来事に幸福を感じるようになってしまった。主人公はこれは果たして本当の自分の意志なのだろうか自問する。今度は、外界の刺激に対して、自分が好きなように点数をつけられる処置を行う。自分の感じる快不快は、本当の感情なのだろうか。他人のプログラムにしたがっているだけなのだろうか。